出版不況と言われる中ヒット作を連発し、毎年利益を拡大させている出版社がある。ビジネス書を中心に出版しているディスカヴァー・トゥエンティワン(Discover21)だ。1985年創業、社員数約40人の大きくはない会社だ。

 無名だった勝間和代さんを発掘したことでも知られ、“勝間本”の元祖「無理なく続けられる年収10倍アップ勉強法」や、婚活ブームの火付け役となった「『婚活』時代」(山田 昌弘、白河桃子共著)、発売3カ月で39万部を突破した「超訳 ニーチェの言葉」など、ベストセラーを連発している。

 編集者約10人で、年間約80冊を発行。取次を通さない直取引で全国4000店と取引しており、出した本の増刷率は75%と、業界平均の20~30%をはるかに上回る。ネットも柔軟に活用しており、昨年12月、独自の電子書籍販売サイトをスタート。4月15日に出した「電子書籍の衝撃」(佐々木俊尚著)は、Twitterを駆使したマーケティングが奏功し、発売から2週間で5万部刷ることが決まった。

 顧客=読者の方を向くことで、売れる商品=書籍が作れると、同社の干場弓子社長は話す。

●「顧客=読者の方を向く」を徹底 営業と編集の垣根なし

 出版の現場では、編集者と営業担当者が対立するケースもよく聞くが、同社では編集担当者も営業ともに「読者の方を向いて」売れる企画を練っており、対立することはないという。

 編集と営業がワンフロアで働き、営業担当者の人数は編集者の2倍。営業現場から書籍の企画案が出ることもある。新シリーズ創刊の際などには、営業・編集担当者混在のプロジェクトチームを結成。読者アンケートや書店アンケートからプロモーションを企画することも多いという。

 読者アンケートの内容をそのまま本にしたこともある。例えば1997年から発行している「I miss you」シリーズは、読者カードで募った恋の一行詩をまとめた人気作で、12巻発行し、累計50万部売れた。「勇気をくれたこのひとこと」シリーズも読者カードで募ったひとことを収録し、10巻累計50万部のヒットとなった。

 「ゼロからスタートした出版社にとって、読者が一番の支え。読者とつながるのは当たり前」

●作れば売れる時代ではなくなった

 同社は取次を通していないため、書籍は書店の注文に応じ、1店1店宅配便で納品。約20人の営業部隊が全国4000もの書店と取引している。

 直取引は手間がかかるが、書店や読者と直接やりとりでき、生のマーケティングデータが得られるというメリットがある。「どの業種でも、作れば売れるという時代ではなくなった。顧客にいかに近づくかがこれからのビジネスで重要。直取引なら顧客である読者の動向をつかんだ上で、書店と一緒に本の展開を考えられる」

 本の売れ行き情報は、店から同社にダイレクトに返ってくる。「売れなかった時に『取次がまいてくれなくて……』など言い訳できない。営業や編集が実際に本屋の棚を見て売れていないのを見ると、申し訳なく思うし、書店との信頼が崩れる」ため、同社側も売れる本作りに必死になる。

 取次を通さない直取引という珍しい出版スタイルは、あえて選んだものではないという。「業界のカラを打ち破ったと言われることもあるけれど、経験がなかったから、知らなかったから。カラがなかっただけなんですよ」

 「大手から独立した編集者なら、作家ごと引き連れ、コネを使って取次を通すのだろうが、わたしはそうでなかったので」。創業以前は世界文化社で「家庭画報」などの雑誌の編集を手掛けていたが、書籍作りは素人。ノウハウもコネもなく、流通ルート作りから作家の発掘まで独自でやるしかなかった。

 当初、「直取引は面倒」と嫌がる書店もあったが、同社の本が売れることが分かると、置いてくれるようになったという。

●ネットでも読者とつながる

 社長自らブログとTwitterを開設するなど、ネットも活用。読者とダイレクトにつながり、声を聞ける貴重な接点という。「電子書籍の衝撃」著者の佐々木俊尚さんとはTwitter経由で出会い、原稿依頼するなど、本作りにも生きている。

 「ITやネット界にはあまり詳しくない」が、活用し始めたきっかけは、勝間さんの「年収10倍アップ勉強法」が有名ブロガーに取り上げられ、ベストセラーになったこと。それ以来ブロガーと交流を持つようになり、自身もブログやTwitterも開始。Twitterのフォロワー数は1万6000人近くいる。

 内藤みかさんなどがTwitterに書いた140文字の小説を集めた日本初のTwitter小説集「Twitter小説集」も出版。一般ユーザーからTwitter小説を募集するコンテストTwitter小説大賞も開き、2000通以上の応募があった。優秀作は電子書籍化する予定だ。

 「ネット時代に対応できているのは、ネット以前から読者の方を向き、読者とダイレクトにつながることを意識していたからだろう」。干場社長はこんな風に自己分析している。

●電子書籍サイトも「読者とつながる」ために

 昨年12月からは独自の電子書籍サイトを構築。電子書籍の販売にチャレンジしている。他社の電子書籍プラットフォームに任せず、あえて独自の電子書籍サイトを構築したのは、直取引と同様、「顧客情報が直接分かり、読者とダイレクトにつながれる」ためだ。

 「電子書籍の衝撃」は自社サイトとApp Storeで配信。自社サイトでは、紙の書籍発売前に110円のキャンペーン価格(定価は電子版が1000円、紙版が1155円)で配信し、Twitterなどでプロモーションした結果、1万のダウンロードがあったという。紙の書籍の売れ行きも好調で、発売から2週間で5万部刷ることが決まった。

 iPadやKindleのヒットをきっかけに電子書籍の話題が盛り上がっているが「まだまだ紙の本で読む人のほうが多いのが現実」という。「『電子書籍の衝撃』も、電子版より紙版の書籍の方が圧倒的に売れている。ただ紙なら読まないが電子書籍なら読む、という人もいるだろう。表現できる媒体が増えるのは、作り手としては面白い」

 新興の出版社の一角として、電子書籍が出版事業参入のハードルを下げることも期待している。「新規参入事業者が取次を通したり、直取引で全国数千の書店に配本するのは大変。電子書籍は流通のためのコストや人件費もいらず、初期投資を軽減でき、参入障壁もなくなる。個人や小さな出版社にもチャンスが広がる」

出版不況でヒット連発 取次なしの“ネット的”出版社「ディスカヴァー21」